「アンダーグラウンド」(村上春樹)級プロレス巨編~「実録・国際プロレス」おすすめポイント10コ~ | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ18回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。

この企画は個人的には単行本発行後、色々と試行錯誤してましてブログ運営における新しい基軸となったと思っています。今後もさまざまなプロレス本を読んで知識をインプットしてから、プレゼンという形でアウトプットしていきます。よろしくお願いします!


今回ご紹介するプロレス本はこちらです。





内容紹介

プロレス専門誌『Gスピリッツ』の人気連載「実録・国際プロレス」が遂に書籍化! 今から36年前に消滅した"悲劇の第3団体"に所属したレスラー及び
関係者(レフェリー、リングアナ、テレビ中継担当者)を徹底取材し、これまで語り継がれてきた数々の定説を覆す。あの事件&試合の裏側では何が起きて
いたのか……驚愕の新事実が続出するプロレスファン必読の一冊。今、埋もれた昭和史が掘り起こされる――。


[証言者]ストロング小林/マイティ井上/寺西勇/デビル紫/佐野浅太郎/アニマル浜口/鶴見五郎/大位山勝三/稲妻二郎/米村天心/将軍KYワカマツ/高杉正彦/マッハ隼人/長谷川保夫(リングアナウンサー)/菊池孝(プロレス評論家)/石川雅清(元デイリースポーツ運動部記者)/森忠大(元TBSテレビ『TWWAプロレス中継』プロデューサー)/茨城清志(元『プロレス&ボクシング』記者)/田中元和(元東京12チャンネル『国際プロレスアワー』プロデューサー)/飯橋一敏(リングアナウンサー)/根本武彦(元国際プロレス営業部)/遠藤光男(レフェリー)/門馬忠雄(元東京スポーツ運動部記者)

内容(「BOOK」データベースより)

今、埋もれた昭和史が掘り起こされる―。パイオニア精神で突き進み、最果ての地・羅臼で散った悲劇の“第3団体”。



2017年に辰巳出版さんから発売された「実録・国際プロレス」。プロレス雑誌Gスピリッツで連載されていた人気企画を書籍化したものです。連載中から読んでいましたが、本当に面白かったので、これは本にまとめるとなれば超大作になるという予感はしていました。

そして予感は的中し、「実録・国際プロレス」はなんと624ページの超・大作となりました。

私個人も国際プロレスには思い入れはあります。リアルタイムで追っていた世代ではありませんが、DVDやムックを読んで国際プロレスが好きになりました。とにかくこの団体、めちゃくちゃ面白いんです!!プロレスライターの流智美さんが「プロレスファンにとって魂のふるさと」という表現をされていますが、まさにその通り。時代を越えてディープに伝わる面白さが国際プロレスにはあるのです。

今回はこの本をなるべくネタバレ少なめにプレゼンさせていただきます!



1."悲劇のプロレス団体"国際プロレスの足跡と歴史が分かる!
まずこの本の冒頭「はじめに」で、国際プロレスというプロレス団体の説明と出版経緯について書かれています。

「1980~1990年代に少しでもプロレスに興味があったならば、誰もが国際プロレス出身者の試合をテレビや会場で一度ならずとも目にしたことがあるはず」
「国際プロレスは傍流であった。力道山門下ながら、BIの入門2日前に日本を発ち、海外マットに活路を求めたヒロ・マツダ。幹部と意見が合わず、日本プロレスを飛び出した吉原功氏。そんな2人が創った団体だけに、初めから傍流であることを運命づけられていたのかもしれない」
「本流だけを追いかけていると、見えてこないこともある。国際プロレスを抜きに昭和のマット界の全体像は掴めないというのもまた事実であり、BIを主軸にせずに日本のプロレス史を深く掘り下げたのが本書である」

これは選手、関係者を合わせて実に23人による多種多様な国際プロレス証言をまとめた一冊です。また設立から崩壊までの国際プロレスの年表も掲載されています。

この本がいかに壮大な超大作になのか。「はじめに」は荘厳さも漂わせながら綴られた最高のプロローグなのです。


2.国際プロレスに関わった裏街道の男達が歩んだ人生。
この本では選手や関係者が国際プロレスについて語ることはもちろんなのですが、ご自身の人生も語っています。また、国際プロレス以後の足跡もです。つまり国際プロレスという団体だけではなく、国際プロレスに関わった男達の歴史も分かるのです。

新日本や全日本というメジャーが表街道なら、国際は裏街道。

しかし、裏街道を歩んだ男達のコクと哀愁がどこかに漂わせながら本編は進んでいくのです。

ここからは気になった証言をいくつかご紹介します。

3."怒涛の怪力"ストロング小林
まず最初に証言するのがストロング小林さん。国際プロレスの元エースです。

実は国際プロレスは1967年1月から1974年3月までTBS、1974年9月から1981年3月までテレビ東京(当時は東京12チャンネル)という地上波テレビでのレギュラー中継が放送されていました。

小林さんはTBS時代に活躍したエース、木村さんは小林さんが退団以降のテレビ東京時代のエースという印象があります。

ここで注目なのが、1974年2月に小林さんは国際プロレスを退団してフリーに転向し、全日本プロレスのジャイアント馬場さんと新日本プロレスのアントニオ猪木さんに挑戦状を叩きつけます。小林さんの挑戦状を受理したのが新日本プロレスの猪木さんで1974年3月19日に蔵前国技館で一騎討ちを行います。「力道山VS木村政彦以来の超大物日本人対決」と形容された大一番。一連の行動の真意と猪木戦について、また新日本入団した理由、新日本と国際の違いも小林さんは語っています。

そして国際プロレス崩壊から数年後、病魔に倒れた元代表・吉原功さんに、引退して俳優となった小林さんが病院に面会するシーンは感動しました。



4."和製マットの魔術師"マイティ井上
国際プロレスが誇るテクニシャンであるマイティ井上さんの証言はなかなか舌鋒鋭い内容とはりました。

また小林さんもそうなのですが、1960~70年代のヨーロッパマット界について語られています。確かに国際プロレスはヨーロッパ地区のルートからビル・ロビンソンを始めとして、今まで来日したことがない多くの外国人レスラーを呼んできていました。

そして国際プロレス崩壊後に井上さんが新日本プロレスを選ばず、全日本プロレスを新天地にした理由も語られています。


5."闘将"アニマル浜口
国際プロレスではバイプレイヤーとして活躍し、その後新日本プロレスで長州力さんと維新軍を結成し一大ムーブメントを起こしたアニマル浜口さん。引退後は浜口ジムを設立し、数多くのプロレスラーを輩出した名伯楽となりました。

そんな浜口さんは国際プロレスだけではなく、プロレス観や人生観まで語っています。

とにかくアニマル浜口劇場、炸裂となった感じでした。そして最後にものすごい名言を残しています。これは是非この本を読んでぜひ確認してください!

ここまでは選手の証言。次からは団体のフロントやマスコミといった関係者の証言をご紹介しましょう。


6."プロレス評論家"菊池孝
国際プロレス中継で解説を務め、代表・吉原さんの親友でもあった菊池さんは国際プロレスの表も裏も知り尽くしたインサイダーでもあります。菊池さんは2012年に逝去されましたが、この本では生前の菊池さんの取材に成功します。

冒頭から実にドロドロとした話が飛び出します。人間関係のもつれや対立がきっかけで誕生しているのが国際プロレスなのだということはよく分かります!!

そして元々国際プロレスは団体ではなく、さまざまな選手を集めて興業を組むプロダクションとして運営したかったといいます。つまりK-1やPRIDE以前に「シリーズごとに全選手と契約を結ぶ」というシステムをやりたかったのです。これは驚きました。先見の明がありますよね、国際プロレスは。だがそれは叶わず所属選手を抱えた従来型での運営となります。


ここから出るわ出るわ、歩くプロレス半世紀史ともいえる菊池さんの貴重な証言が!

そして興味深かったのが、国際プロレスが東京12チャンネル放送終了後にフジテレビにアプローチしていたという事実。もし実現していたらプロレス界はどうなっていたのでしょうか?

そして菊池さんと吉原さんが喧嘩して、吉原さんが「やった奴にしかわからない、プロレスは!」という発言に対して「観る方にしかわからないこともあるんだ!あんたはやったプロかもしれないけど、俺は観るプロなんだ!」という切り返しには痺れました!




7."元TBSプロデューサー"森忠大
この本が発売されてから二年後ぐらいでしょうか。流智美さんが元テレビ東京プロデューサー・田中元和さんの機密メモ「田中メモ」を元に丹念に取材した「東京12チャンネル時代の国際プロレス」という本が出ています。こちらも素晴らしい一冊でした。

「実録・国際プロレス」でも田中さんの証言が掲載されていますが、テレビ東京以前に放送していたTBSの森さんの証言も掲載されています。実は森さんと吉原さんは高校・大学時代の同級生なのです。

TBS時代の国際プロレスもなかなか興味深いですね。グレート東郷さんがブッカーを務めていたんですよね。
TBSはストロング小林ら若い選手をいずれは看板レスラーにするための「9年計画」を固めていたといいます。

最後に森さんが「吉原はつくづく社長に向いていなかった。ただあいつの人徳で随分と応援席してくれる人がいたんです」としみじみと語ったのが印象的でした。そして国際プロレスに関わったことに後悔はないそうです。


8."元国際プロレス営業部"根本武彦
国際プロレスの内部から語れる証人として貴重なコメントが飛び出したのが元国際プロレスの営業マン・根本さん。国際プロレス崩壊後は全日本プロレス、プロレスリングノアでもフロントとして生き抜いてきました。

新人の営業マンとして、地方でチケットの売り込みにいくも、なかなか売れない。熊本で一日20件以上の会社に回るも、売れたチケットはたったの三枚だったことも。

また1979年に開催された「夢のオールスター戦」での新日本・全日本・国際の三団体の営業同士の話し合いについても言及しています。なんと新人ながら根本さんはこの営業会議に国際プロレス代表として参加したそうです。

国際プロレスの経営がいよいよヤバくなる状況については根本さんの証言が実にリアルに伝わります。長年自転車操業で経営してきた団体なので、この本を読んでいても「国際プロレスが儲かっていた」という印象を感じることはありません。常にタイトロープなんですよね。

最後に根本さんの心に残るコメントを紹介します。

「我々はあくまでチケットを売る商売ですから、企業努力が足りなかったのと、いろんな面で甘かったんでしょうね。全日本に入社したら、本当にメジャーだなと思いましたよ。物凄くチケットが売れましたから。(中略)やっぱり国際の時は、ぬるま湯に浸かっていたように思いますよ。でも大学卒業後に国際プロレスに入って、全日本プロレスに移って…もうノアは退社しましたけど、気づけば40年弱もこの世界にいたわけで、やりたいことができたという満足感はありますよ。その原点は国際プロレスですよね。僕は最初が国際プロレスで本当によかったと思います」

営業サイドから見えるプロレスの景色がよく伝わるインタビューでした。





9.この本はプロレス版村上春樹の「アンダーグラウンド」である!
この本を読んでみて、なんか懐かしい匂いがしたんです。国際プロレスは昔のプロレス団体だからではなく、これは昔こんな感じの本を読んだことあるなと。


そして私は思い出しました。あれは20年以上前のこと。学校の図書館で借りた一冊の本。

「アンダーグラウンド」(村上春樹)



 

 

「アンダーグラウンド」は1997年に講談社から発売された本です。1995年に起きた阪神淡路大震災、そして地下鉄サリン事件。日本の戦後史の転換期を狙い澄ましたかのようなこの二つの悲劇は、地下――「アンダーグラウンド」から突如噴き出した、圧倒的な暴力の裏と表を村上春樹さんが62人の関係者への丹念なインタビューを通じて浮かび上がらせる現代日本の、そして人間の底深い闇。強い祈りをこめた、渾身の書き下ろしノンフィクション。

これは本当に素晴らしい一冊でした。私はもし将来に作家になるなら、こんな使命を背負い信念を持って書き上げる作品を書いてみたいと思ったものです。

私には、「実録・国際プロレス」が村上春樹さんの「アンダーグラウンド」を彷彿とさせる一大巨編に見えたのです。

村上春樹さんは村上さんは、一人一人に対して、「その人はその人の物語にとって主役であり、地下鉄サリン事件においては脇役である」という信念を持って取材して「アンダーグラウンド」 という名作を書き上げました。

この村上さんの「アンダーグラウンド」における考え方を「実録・国際プロレス」に少し置き換えると、「国際プロレスの歴史においては、証言者は脇役かもしれないが、その人の物語においてはそれぞれが主役」なのです。

これは個人的な感想なのですが、まさか「アンダーグラウンド」的超大作にプロレスをテーマにした作品で出会うことになるとは夢にも思いませんでした。




10.もしこの本を読まれた方にはこちらもおすすめしたい!!
この本を最後まで読まれて国際プロレスに興味を持たれた皆さん。そしてこの本が好きになった皆さんに私からおすすめしたい。


「実録・国際プロレス」は取材時は存命中の選手や関係者へのインタビューをまとめた一冊です。

しかし、国際プロレスの歴史を語るなら忘れてはいけない人がいます。それは"国際プロレスのエース"ラッシャー木村さんです。木村さんは2010年に逝去され、取材されることはありませんでした。

そこで「実録・国際プロレス」を連載していたGスピリッツのvol.46では木村さんの次男である木村宏さんのインタビューが掲載されています。これは必見です。寡黙で人の悪口はあまり言わなかったラッシャー木村さんの素顔と本音が明かされています。

 

 

 


「実録・国際プロレス」と「Gスピリッツvol.46」の二冊をコンプリートしてこそ、 "悲劇のプロレス団体"国際プロレスが分かるのです。


傍流を歩むことを運命づけられたある団体の足跡から見えてくる日本プロレス界の裏歴史に皆さんも足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?